事例ファイル【相続】夫婦のきょうだいが背後にいる家族

■離婚直前に夫が死亡、妻は法定相続分を受け取れるか?

A子さん(84歳)は夫(84歳)と二人住まい、二人には子供がおらす、夫は再婚で前妻との間に遠方に住む長男(55歳)がいました。

ところが数年前、A子さんが脳梗塞で倒れて半身まひの状態になり、夫も階段から落ちて車椅子生活になりました。二人とも判断能力や意思疎通能力には問題はなかったのですが、要介護認定となり、自立生活が難しいことからA子さんは10歳年下の独身の妹が同居して面倒を看てくれることに、夫は弟夫婦が自宅に引き取り面倒を看ることになりました。

約2年後、A子さんは夫側から離婚の申し入れを受けたのです。内容は、「夫婦双方とも回復の目途がなく、今後もそれぞれのきょうだいの世話になるのだから、後々の相続のもめごとを避けるためにも、いまのうちに話し合って離婚した方がいい」というものでした。

A子さんは昔から夫の弟夫婦とは折り合いが悪かったこと、妹の助言もあり、離婚を決意し、協議離婚を進めていたのですが、調印の数日前に夫が急に亡くなってしまったことで、「離婚案件から相続案件」に一転してしまいました。夫の相続人はA子さん、夫の長男の二人であり、法定相続分はそれぞれが2分の1です。

夫の長男の言い分は、「A子さんは離婚することが決まっていたんだから、協議離婚の合意書面に書かれた財産相当でガマンすべきだ。」と‥‥

A子さん側の言い分は、「離婚前に夫が亡くなったのだから法定相続通りに相続する権利がある。」と‥‥

このような言い分の背後には、夫婦それぞれのきょうだいの存在が大きかったようです。夫を世話している弟夫婦への配慮、A子さんの面倒をみてくれた独り身の妹への配慮などが大きく影響しているようでした。

結果的にはお互いが弁護士をたてて、ほぼ法定相続分で遺産分割することになりました。

遺産分割の手続きの際、A子さんの戸籍を取り寄せたところ、「夫の長男とA子さんが養子縁組」していたことが判明しました。しかしA子さんには全く覚えがありません。市役所の養子縁組届を取り寄せたところ、A子さんが書くべき欄が別人による代筆だったのでした。養子縁組無効調停の申し立て後、養子縁組が有効であることを前提に養親子関係を解消する離縁で決着しました。

高齢になると、心身の不自由や周囲の遠慮から自分の本意を伝えにくい状況になりがちですが、大切なのは「自分が何をしたいか、してもらいたいか。」「何をしたくないか、してもらいたくないか」といった意思を明確にしておくことです。遺言書以外にも、エンディングノートの作成も効果的です。