事例ファイル【家族信託】収益不動産のオーナーである高齢の父、今後の資産管理は?

83歳の父が所有し管理している2棟のアパートがあります。今のところ父は元気ですが、アパートの賃貸借契約などは父に代わり長男(60歳)、長女(52歳)が代筆しています。

万が一、父が意思判断能力がなくなり認知症と判断されてしまうと、アパートの修繕(特に大規模修繕)、建替え、売却、賃貸借契約、管理委託契約といった法律行為は一切出来なくなってしまいます。

父の認知症により法律行為をするには成年後見制度を利用することが考えられますが、この制度の目的はあくまで資産の現状維持なので売却や建替えはもとろん、大規模修繕などは出来ません。また一旦後見制度を利用すると父が死亡するまで続けなければなりませんし、父のお金の収支はもとより、郵便物さえも家族は知ることができなくなってしまいます。

「不動産相続の相談窓口」のもめない相続セミナーに父、長男と共に参加し、家族信託について勉強しました。父が元気なうちに万が一の認知症の対策として、アパート2棟について家族信託を活用しようと決めました。

家族信託は特定の財産(今回はアパート2棟)について父を委託者、アパート2棟の管理・運用・売却などができる受託者を長男と長女、その財産から発生する利益をもらう受益者を父として家族信託を組成しました。受託者を長男と長女にすることで単独での暴走行為の予防にもなります。

父の子供は長男、長女の二人ですから、アパートの管理・運用・売却などができる権利を後々のトラブルを防ぐため、長男と長女にしました。同時に万が一、父に相続が発生したときのことを考慮し、長男と長女に1棟ずつを相続させるような仕組みを取り入れました。家族信託には特定の財産の管理・運用・売却のほかに、遺言書の機能を取り入れることが可能です。

次に家族信託を取り扱っている司法書士に信託契約書を作成してもらいました。受託者である長男と長女には現金の必要があれば二人の同意により、アパートの売却も可能ですし、父の相続で父が決めたアパートを相続できるようになっています。万が一、父が認知症と判断された際には信託の効力が発生し、2棟のアパートを長男と長女が管理・運用・売却・建替えなど決められた通りの行為が、長男と長女の二人で行うことができます。この信託契約書は公正証書にしてもらいました。

もし父が認知症と判断されてしまうと、このアパート2棟は売却したり賃貸することもできなくなってしまい塩漬け状態になってしまうところでした。